No.12 H19.3

生きていてもよくわからなかった。
どうすればいいのか、どうしてもっと生きなくちゃいけないのか。
あのひとに会うまでは。


神様のボート 江國香織(新潮文庫)

葉子、という女性の大恋愛小説、でもあり、
葉子と草子の母娘間にある、愛の物語でもある。

葉子と草子が交互に語る、という形式なため、
同じできごとを、危険なくらいロマンチストな母、
葉子とそんな母を見ながら冷静に成長する娘、
草子の視点から見ることができる。

葉子は"あのひと"と「骨ごと溶けるような恋」をして、
その結果草子が生まれた。
そしてその"あのひと"は、「きっと君を見つけ出す」と約束をして
葉子の元を去っていた。
何年も前に。

そんな"あのひと"との再会を待ちながら、草子を連れた葉子は引越しを繰り返す。
"あのひと"以外のものになじむわけにはいかない、
なじんでしまったら、会えなくなる、と本気で信じて。

葉子はすごい、その一言につきる。
"あのひと"と交した約束だって、いつなのか、どこなのか、の具体性は一つもないのに、
それでも信じてる。
疑う、という言葉を知らない子供のように、本気で信じている。

葉子の、失うことを何も怖がっていない姿、は、私にはとても眩しく見えた。
だがそれは、葉子には"失うことを恐れるほど愛してるもの"が極端に少ない、
ということなのだと思う。
それを、桃井先生に指摘される言葉が、私の胸に痛く刺さった。
「きみは馴染まないね。浮かない変わりに馴染みもしない。
そしてそれはときとしてまわりの人を孤独にするものだよ」

なじんでしまうこと、なじんでから失うこと、にひどく脅えている私は、
自分の中の葉子の存在に気付いた。
私には、なじまないことで守ろうとしているものがあるのかもしれない。

葉子は、"神様のボート"に乗ってしまったのだという。
"あのひと"の元へまっすぐ向かう、ボート。
だから、それ以外のものや場所に、なじむわけにはいかない。

とても孤独なボートだと思う。
まわりを孤独にし、会えない苦しさをまぎらわすことも、許されない。
それでも、葉子は平気だ。
期待、とか希望が強いから。
本当は平気じゃないのかもしれないけど。

反対に、"安心"を求めて"慣れること"を望む草子。
草子の感覚が、とても普通で、人間らしい。
大人になる、ということは、そういうことなのかも知れない。

私は何が欲しいのだろう…と考えさせられた。
安定も安心も欲しい。
でも、なじむのはやっぱり、どう考えても恐い。
一つだけ言えることは…私は、葉子のように、
"孤独を覚悟した上でのボート"には、決して乗りたくはない、ということ。
もしかしたら、乗ってしまってるのかもしれないけど。


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